動物のイメージ

車のエンブレムには、ライオンや馬、蛇といった印象的な動物が数多く登場します。これらはただの飾りではなく、ブランドの哲学や歴史を表現する重要な要素として機能しています。

ライオン、馬、蛇、なぜ動物が車の顔を飾るのか

車のエンブレムには、実在の動物をかたどったものが多く見られます。ライオンや馬、蛇など、力強く印象的な動物が選ばれているのには、明確な理由があります。これらの動物たちは、単なる装飾として存在しているのではなく、それぞれのブランドが大切にしている価値観や背景を象徴するために使われているのです。

プジョーのライオンは、もともとノコギリの刃の強さや鋭さを象徴して採用されたとされています。やがてブランドの「王者としての品格」「誇り高い精神」「力強さ」を表すアイコンとして昇華していきました。フェラーリの跳ね馬は、第一次世界大戦で活躍したイタリア空軍の英雄、フランチェスコ・バラッカの飛行機に描かれていたものです。バラッカの両親がその紋章の使用を許可し、フェラーリ創業者がそれを引き継いだとされています。

アルファロメオのエンブレムに描かれている蛇は、ミラノの名家ビスコンティ家の紋章に由来する「ビショーネ」という伝説的なモチーフです。古代の騎士的な誇りと都市の伝統を表し、イタリア車ならではの格式と文化を感じさせる要素となっています。

このように動物が登場するエンブレムには、デザイン的な美しさだけでなく、ブランドの哲学やストーリーが深く込められているのです。車という工業製品の域を超えて、精神性や象徴性をも伝えている存在だといえるでしょう。

動物の意味に込められたブランドの戦略

動物のモチーフは、古くから人々の心に働きかける力を持っています。ライオンは「王者」「守護」「気高さ」の象徴であり、特にヨーロッパでは貴族の家紋にも用いられる伝統的な存在です。プジョーのほかにも、ローバーやMGなど英国系のブランドでもそのモチーフが確認されています。

馬は「速さ」「気品」「忠誠心」を表現する際によく使われます。フェラーリの跳ね馬は高性能なスポーツカーとしての誇りを感じさせる一方で、ポルシェのエンブレムに見られる馬は、ブランドの拠点であるシュトゥットガルトの市章に由来しています。ポルシェにとっては、地元とのつながりや誇りを示す存在です。

蛇は文化によって意味が異なりますが、共通して「知恵」「治癒」「再生」といった象徴性を持っています。さらに、危険性や神秘的な存在としての印象も与えることができるため、ブランドに独自性や挑戦的な印象を加えるにはうってつけです。アルファロメオの蛇はまさにその象徴であり、他ブランドとの差別化にもつながっています。

こうした動物の象徴性は、消費者の無意識に訴える要素としても有効です。エンブレムはブランドそのものを象徴する「顔」としての役割を果たすため、どの動物をどのように選ぶかはブランド戦略に直結する重要なポイントになっています。

なぜ今も動物が選ばれ続けているのか

近年の車のエンブレムは、デジタル環境を意識してシンプルな平面デザインに移行しつつあります。その一方で、動物モチーフのエンブレムは依然として一定の存在感を保ち続けています。その理由の一つは、動物という具体的で象徴的な存在が持つ、記憶への定着力の高さにあります。視覚的な個性が強いため、一度見たら忘れにくく、ブランド認知において有利なのです。

さらに、動物の象徴性は文化を超えて共通の理解が得られる点でも強みです。たとえば、馬が速さや品格を象徴するという認識は、欧米だけでなくアジアでも広く受け入れられています。これにより、グローバルに展開するブランドでも、文化的な誤解なくメッセージを伝えることができます。

また、近年では動物のモチーフに「自然との共生」や「環境意識」といった価値観を重ねる動きも見られます。環境に配慮した車作りを掲げるブランドにとって、動物というモチーフは、企業のビジョンを視覚的に伝えるシンボルにもなりうるのです。

このように、動物モチーフは単なる伝統ではなく、時代の変化に適応しながら新しい意味を獲得しています。ブランドの本質を象徴的に伝える手段として、これからも進化を続けていくでしょう。