ペンキと筆

車のエンブレムに使われる色には、単なるデザイン以上の意味があります。色は視覚的な印象を通じてブランドの個性や哲学を伝え、ユーザーの無意識に訴えかけています。どの色を選ぶかには、明確な意図と戦略があるのです。

赤は情熱とスピードを表現する

自動車の世界において、赤という色は非常に強い存在感を放ちます。エンブレムにおける赤は、しばしば「情熱」「スピード」「競争心」といったエネルギッシュなイメージと結びつけられています。

フェラーリはその象徴ともいえる存在です。エンブレム自体は黒の跳ね馬をメインとしていますが、ブランド全体を通じて赤の印象が非常に強く、「ロッソ・コルサ」と呼ばれるレーシングレッドのボディカラーとセットで語られることが多いです。この赤には、イタリアのレース文化や国の象徴色としての意味も込められています。

また、マツダも赤をブランドカラーとして重視しています。特に「ソウルレッドクリスタル」は、光と陰の動きを感じさせる塗装技術と組み合わされ、マツダの「走る歓び」を視覚で表現する要素となっています。エンブレムそのものには赤が使われていなくても、ブランドイメージの核に赤が存在するケースは多いのです。

このように、赤は高揚感や感情の高まりを訴えかける色であり、情熱的な姿勢や革新性を表現したいブランドにとって、非常に効果的な選択肢となっています。

青は信頼と知性を示す色

青は、冷静さや誠実さ、そして知的な印象を与える色として広く認識されています。自動車ブランドでも、信頼性や堅実さを訴えたいときに青を取り入れる傾向があります。

代表的な例がフォードです。楕円形の青いオーバルロゴは、1912年の採用以来、100年以上にわたってブランドの顔として親しまれてきました。この青には、「実直で信頼できる車作り」への誓いと、誰にでも届く製品であるというメッセージが込められています。

BMWのロゴにも青が使われています。こちらは、ドイツ・バイエルン州の州旗の色をモチーフにしており、地域とのつながりを象徴しています。プロペラのように見えるデザインは誤解された経緯がありますが、実際には青と白のチェック模様がルーツです。

青という色は、主張しすぎない安心感と清潔感を与えるため、長期間のブランド維持にも適しています。EV化や環境対応など、冷静で未来志向なテーマとも親和性が高く、今後ますます活用される場面が増えると考えられます。

モノトーンが持つ洗練と普遍性

近年、自動車のエンブレムには黒や銀、白といったモノトーン系の色が好まれる傾向が強まっています。これらの色は「洗練」「高級感」「普遍性」を訴求しやすいという特徴があります。

たとえば、アウディの四つの輪を模したエンブレムは、メタリック調の銀を採用することで未来的な印象を与えると同時に、ブランドの一貫性や技術力を表現しています。シンプルながら強い印象を残すそのデザインは、時代の変化に左右されにくい点でも優れています。

また、ロールスロイスやベントレーといった高級車ブランドでは、黒が象徴的に使われています。黒は「威厳」や「力強さ」「独自性」といった印象を与えるため、選ばれた存在であるというメッセージを視覚的に伝える手段として機能しています。

モノトーンの配色は、余計な情報を削ぎ落とすことでロゴ本来の形や意図をより明確に伝える役割も持っています。ブランドが長期的に一貫性を保ちたい場合や、グローバル市場において文化差を意識せずに展開したい場合においても、極めて有効です。

機能美と象徴性のバランスを保ちながら、エンブレムが色で語る時代は、今後も続いていくでしょう。